「グレーいじめ」の克服方法について、成功率の高い方法を紹介すると言ったが、それをお伝えするにはまず「グレーいじめ」の具体例を挙げておかなければならない。でなければ、この後にお伝えする克服法がなぜ有効なのか、なぜそれをしなくてはならないのか、が分かりにくくなるからだ。具体例について私の体験をベースにお伝えしよう。
但し、あまりに詳細に書くと、当時の行為者を特定してしまい、名誉棄損と言われかねないため主旨を曲げない程度にアレンジ、もしくはぼかして記載することを許してほしい。
「グレーいじめ」というのは例えばこうだ。
私は当時中途入社の転職組としてある会社の営業部に配属になった。そこは専門的な商品を販売するメーカーであったため、顧客への専門的な知識の提供はもちろんのこと、顧客との関係構築のために接待や個人的なつながりを持ち、滅私奉公的な行為もまだ普通に行われており、それらのトータルな能力が求められ、その能力の多寡によって売上実績が左右されるという状況であった。
私の配属された営業所は地方にあり、所長を入れて7人程度の比較的小さいチームであった。
私は前職までの職歴が非常に良かったので、ある種鳴り物入りでの配属となった。
当時の所長は面接時、そして最初の数週間までは物分かりがよく、営業の知識や能力も抜群に高く、ユーモアあふれる最高の上司であった。私は理想の上司に巡り合えたと喜んでいた。
ところが1カ月目に入るころ、所長の態度が豹変した。私たち新人の日々の行動に厳しいノルマを課し、
「絶対妥協はしないでください」
という言葉とともに、それが達成できるまで家には帰れないくらいの叱責を始めた。
しかもそれだけではなかった。直行直帰の営業体制であったため、日々の報告は全てメールと、イントラネットの中にある日報システムと経費計上システムを使うことになっていたが、その提出締め切りは夜の11時59分(つまり日付が変わるまで)だったのである。
行動のノルマが高かったので、家に帰るのは通常夜の9時前である。
(ちなみに朝は7時過ぎに家を出るので毎日12時間以上は働いているという計算になる)
食事と風呂を除くと、残る時間は2時間弱。
「だったら急げば何とかなるじゃないか」
と思われるかもしれない。
しかし急いで何とかなるくらいなら、ここでわざわざ書くことなどない。
大変なのはここからなのだ。
まずメールでは、その日にどれだけの人と商談をし、その内容や受けた質問ややりとり、正確な顧客の部署、名前、ポジションなどを報告しなくてはならなかった。ちなみに1日に会う人のノルマは10人である。毎日10人分の報告をするのは、それだけでも大変な作業である。そしてそれを送るとすぐに所長から返信があり、
「商談をした人の名前が2か所入っていませんが、誰と話したのかすぐにメールください」
「なぜA社の○○さんはあなたにそういったのか、あなたの考えを示してください」
「藤井さん、そのときなぜ○○という商品の説明を加えなかったのですか。その理由を説明してください」
「○○課長はその会社のキーマンです。次回に話す内容をメールしてください」
等、説明や確認に時間のかかる細かな指示が来る。それにもすぐに対応しなければ
「なぜ、指示に従わないのですか」
というメッセージが来る。ある日、報告が多く、それが終わる頃には、イントラネットの日報システム入力と経費計上システムの提出期限を超えてしまった。すると次は、
「日報システムと経費計上システムの入力が終わっていません。なぜ期限を守れないのですか」
「今までは許されていたかもしれませんが、わが社に入った以上、いい加減なスタイルは許されません」
という主旨のメールが入ってきた。しかも夜の12時過ぎにである。それが、少しでも早く提出するためにシステムへの入力を行っている最中に目に飛び込んでくるのである。疲れた体にこれは堪える。
私は慌ててメールをする。
「各種報告で時間がなくなり、現在急いで入力しています。誠に申し訳ございません」
すると
「言い訳はしないでください。全て自分の責任です」
とくる。
その上強烈だったのは、
「次回同じ事になれば、警告文を出します。警告文を2回受ければその時点で会社を去って頂くことになることを、よく覚えておいてください」
というメールだった。これにはもう辛さを通り越して恐怖しかなかった。
すでにここでの内容は、今であれば厚生労働省のいう「過大な要求」「精神的攻撃」「身体的攻撃」のいずれか、または全てにあたるかもしれない。
もし、これらのことが今の皆様に対して行われているのであれば、今なら明確なハラスメント行為と判断されるだろう。
当然、被害を受けた人が然るべきところへ持っていき、対応を取ってもらえば何らかの形で解決できる可能性は高いだろう。
ところが、上記のものは私がお伝えしたい「グレーいじめ」ではない。
このストーリーは、単なる「グレーいじめ」の前座である。
私がお伝えしたい「グレーいじめ」はこのあとに起こる事件がきっかけとなる。
そのせいで私のこの転職先での生活は、精神的な溺死の一歩手前くらいまで追い込まれることになる。